谷本小学校の横浜プログラム
児童の安心と職員の組織力を育む教育の柱:谷本小学校の「横浜プログラム」
~社会的スキルの育成を通して、温かな学校風土とチーム対応力を高める~
谷本小学校では、一昨年度より「子どもの社会的スキル横浜プログラム」(以下、横浜プログラム)を教育課程に位置付け、全校的に取り組んでいます。このプログラムは、子どもたちの社会性や自尊感情を育てることを目的とし、温かな学校・学級風土の醸成や子ども理解の深化を目指す指導プログラムです。年間を通して継続的に実施することで、子どもたちが安心して学校生活を送ることができる環境づくりを進めています。
横浜プログラムの大きな特色は、子どもたちが日常の中で社会的スキルを自然に身につけられるよう、体験的な学びを重視している点です。例えば、学級活動や特別活動の時間を活用し、友達を誘ったり誘われたりする体験を通して、みんなで何かをする楽しさを実感できるような授業を行っています。こうした活動を通じて、子どもたちは人と関わることを学び、協力することの大切さや喜びを感じることができます。
また、互いの意見やよさを伝え合う場面を意図的に設けることで、自分と友達の意見の違いを認める力や、他者への寛容性を育てています。さらに、自分自身や友達のよさを認める機会をつくることで、自尊感情の向上にもつなげています。これらの活動は、単なる交流の場ではなく、子どもたちが自分を表現し、相手を受け止める力を育む貴重な学びの場となっています。
このような取り組みの成果として、児童が安心して学校生活を送ることができるようになったという声が多く聞かれるようになりました。授業中に自分の意見を発表することへの不安が軽減され、友達との関係においても、トラブルが起きた際に自分で対処法を考え、解決しようとする姿が見られるようになっています。また、職員が児童一人ひとりを丁寧に見取るようになり、問題や課題があったときにはチームで迅速に対応する体制が整ってきました。こうした職員のチーム対応力の向上は、児童の安心感にも直結しており、現在、不登校の児童が一人もいないという成果にもつながっています。
横浜プログラムは、年間計画に基づいて系統的に実施されています。6年間を通して、谷本小の全児童の資質・能力を高めることをねらいとし、支援検討会ではクラス全体や気になる児童の周囲の児童に対して、伸ばしたい社会的スキルを意識したプログラムを展開しています。教室には「3つの基本ルール」を掲示し、どの授業でもそのルールが有効であることを子どもたちと共有しています。月ごとのプログラム実施後には、児童支援部の先生へ報告を行い、全クラスでの実施状況を確認する体制を整えています。
指導プログラムの準備は、児童支援部の先生を中心に学年で協力して行い、資料は教具室の専用棚に整理・保管されています。各学年で実施したプログラムのデータは、共有フォルダに保存され、継続的な活用と引き継ぎが可能な体制に努めています。
昨年度の校内研究では、「自ら思いや考えを表現しようとする児童の育成 ~横浜プログラムの活用を通して~」を研究主題に掲げ、主体的に表現するための資質・能力の育成を目指しました。実践を通して、自分に自信をもったり、友達と安心して関わったりする経験から、自分の思いや考えを表現する児童が増えてきました。一方で、低自己評価群に残る児童もおり、仲の良い友達としか関わろうとしない姿や、褒められても自信につながらない姿も見受けられました。これは、形としての適切な行動は広がってきているものの、本質的に自他のよさや違いを感じ、認める体験が不足していることが背景にあると考えられます。
そこで本年度は、「自他のよさや違いを感じる児童の育成」に重点を置き、教育課程全体で育成を目指す「認め合う力」の育成に取り組んでいます。目指す児童の姿として、以下の3つを設定しています。
- 第1の姿(自分づくり):自分の考えや感じ方をもち、自他の違いやよさを感じる姿。
- 第2の姿(仲間づくり):相手を感じたり、推し量ったりして表現・行動する姿。
- 第3の姿(集団づくり):自他のよさや違いを生かし、認め合いながら課題遂行・合意形成する姿。
これらの姿を目指すために、横浜プログラムを活用し、Y-Pアセスメントやエピソード記録をもとに児童の実態を分析し、授業実践へとつなげています。授業づくりにおいては、子どもたちが「感じる」体験の質を重視し、指導案作成時には、どんな体験をさせたいか、どんな姿を引き出したいかを学年や研究主任と共有しながら進めています。
研究の進め方としては、授業前後も含めて継続的に横浜プログラムの考え方を取り入れた授業を行い、年間を通して児童の変容をみとっていきます。授業研究には講師を招き、具体的・実践的な指導を受けながら、年間5回の研究協議会を実施しています。授業後には事後研究を行い、児童の姿を根拠に授業の手立てを振り返り、教員間で子ども観の共有と新たな視点の獲得を図っています。
このように、谷本小学校では横浜プログラムを中心に据えた教育活動を通して、子どもたちが自分らしくのびのびと生活できる温かな学校風土の醸成を目指しています。社会的スキルの育成は、子どもたちの現在だけでなく、将来にわたって大きな力となるものです。今後も、子どもたちの心の成長を支える教育活動として、横浜プログラムをさらに充実させていきます。
